今回は会陰ヘルニアという病気についてのお話です。
まず「ヘルニア」と聞いて大半の方が思い浮かぶのは腰痛だと思います。
そもそも「ヘルニア」とは、体の中の組織や臓器が裂け目から飛び出てしまった状態のことを言います。
腰痛に関連するヘルニアは「椎間板ヘルニア」と言い、椎間板物質というものが飛び出して神経を刺激して痛みが生じるものです。
ヘルニアの代表例は臍(さい)ヘルニアで、いわゆる「でべそ」です。
つまり会陰ヘルニアとは、会陰部(肛門の周りのこと)の筋肉が裂けてしまい、そこに腸や膀胱などの臓器が入り込んでしまう病気です。
最初に直腸が入り込んで痛みを伴う排便困難が症状として現れ、筋肉の裂け目が大きくなると膀胱や前立腺(男の子の場合)も入り込み、排尿困難を起こす可能性もあります。
この病気になる子は、中高齢の去勢していない犬がほとんどです。男性ホルモンが会陰部の筋肉を弱くするとも言われていますが、多くは男性ホルモンの影響で前立腺が肥大することが原因だと考えられています。
前立腺は膀胱の尾側に位置し、そのすぐ背中側には直腸があります。前立腺が肥大すると、便の通過障害を起こして排便に時間がかかり、いきみが出てきます。そのいきみが強くなると会陰部の筋肉が裂けて会陰ヘルニアになるという訳です。
治療は裂けてしまった筋肉を縫合する外科手術になります。
当然去勢手術をしていない子は同時に去勢も行います。
今回来院したのは8歳のワンちゃんで、毎日排便の度に激痛が走り、近所に聞こえる位の悲鳴をあげていたそうです。予想通り去勢手術はしておらず、前立腺もかなり肥大していました。
手術後は排便時の痛みも消え、いきみもなく落ち着いています。
この子の飼主様は、去勢手術をしていない事がこのような病気を招くとは全く知らなかったようで、知っておけば早くにしてあげたのに…とおっしゃっていました。
去勢手術に限らず、予防出来る病気を飼主様にしっかりと分かりやすく説明する事、さらに飼主様に理解・納得して頂き、予防していく事は獣医師にとって大切な任務であると改めて感じた症例でした。